自然現象でもなかなか未来のできごとにたいして、それが起こることは必然だなどとはいいにくいのですから、人間のことがらに関してはなおさらのことです。
「人間万事塞翁が馬」といったところです。
しかし仮りに、千里眼的な超能力をもつ人物がいて人間の未来についてすべて見通しだといって予言を下したとしても、それを聞いた本人がそんな未来はいやだといって避けようとすることたってありえます。
人間は石や木とちかって自由意志というものをもっているからです。
進路決定にさいしてとるべき態度以上のように考えてくるとA君が「自分が理科系に進むことは必然だ」と簡単に断定し、他の進路を早々と排除してしまうという態度は考えものです。
しかしそれならどうすればいいのでしょうか。
A君は、選択を図31の下の水平線上の二つの間でおこないました。
つまり「……が必然である」と「……でないことが必然である」といった必然性のレベルでおこないました。
そしてこれはもちろん反対関係の二つの間の選択でした。
このように必然のレベルでものごとを考えますとますます、反対の可能性をつぶしてしまうことになります。
たとえば図31でみればわかるように、「理科系に進むことが必然である」といいきってしまいますと、対角線のもう一つの端にある「理科系に進まないことが可能である」をはじきとばすことになります。
というのもそれら二つは大そう鋭い対立状態、つまり矛盾という状態にあるからです。
第二には「必然である」と「でないことが必然である」とは、矛盾ほど強くはありませんが、反対といったかなり強い対立関係にあります。
そして反対関係に立つ二者はともに真とはなりえないのです。
だとすると残された道は、必然性のレベルでなく可能性のレベルでの二者択一をやればいいでし。
う。
つまり図31の上のほうの水平線上の二者の間で選択すればいいでしょう。この上に立っており、両者は同時に真でありうるからなのです。
現実性とはこのように未来の進路を決断するに際しては、とるべき選択肢を必然性のレベル、つまり窮屈なレベルで考えるよりは、可能性のレベルつまりゆるやかなレベルでゆとりをもたせながら考えるほうがいいでしょう。
しかし必然だ可能だといっても、いったん選択を終え、どちらか一方か現実になってしまえば、それはまさしく現実性そのものであって、もはや必然性でも可能性でもありません。
じっさいハムレットの心境で悩むのは決断のまえのことで、決断してしまい、選択肢の一方が現実化してしまえばもはや悔んでみても始まりません。
後悔及ぶことなし、悔んでもおっつきません。
悔むぐらいならまえもって正しく決断すればよかったではないかといわれても、それはその「後悔先に立たず」です。
先に後悔するなんてことはありえません。
まえもってはなかなか失敗に気がつかないものです。
大きい場合は歴史的な事件、小さい場合は個々人のことなった行為といったものはすべて起こった後で考えればもはや可能の世界ではなくて、現実の世界です。
そして可能と現実を混同することはできません。
よく歴史には以がないといわれます。
起こってしまったことがらについて、他の可能性をうんぬんすることは無意味です。
そんなことをするのは可能性と現実性の区別を無視することです。
とはいえ[前車のくつかえるは後車の戒めなり]という諺もあります。
先人の失敗を見て後人の戒めとするという意味です。
これは「後悔及ぶことなし」とは別に矛盾しません。
過去のことから、現実化したことからについて他の可能性を論じるのは愚かな繰りごとですが、過去の失敗を参考にして、未来の可能性を考え、よき決断をすることはりっぱなことなのです。
そしてこれこそが歴史に学ぶことであり、経験に学ぶことなのです。
』とはやめよう不可能ときまった・このように未来にたいする決断は、必然性のレベルでの選択よりは可能性のレベルでの選択のほうが好ましいといいましたが、しかしここで急いで但し書きをつけ加えればなりません。
つまり可能性のレベルで考えたほうがいいのは、未来に生じるできごとに不確定な要因がある場合であり、人類や国家の未来、各人の未来の大部分はそうした性質のものです。
しかしニュートン力学の法則に従うような決定論的現象はむしろ必然性のレベルで考えた方が実情に即しているからいいのです。
未来における必然的なニュースがまえもってわかっているような場合は、「でない可能性」などを考えても無駄なのです。
というのも「必然である」は図30でわかるように、「でないことが可能である」と矛盾関係にあり。
「必然である」が真ならば、「でないことが可能である」は当然、偽となるからです。
ま矢必然的であると証明されているような法則や定理にたいして「でないことが可能である」と考えたり、不可能であると証明されているよりな法則や定理にたいして「可能である」と考えたりといったあまのじゃくの道を歩もうとすることも無駄なことです。
たとえば「永久機関、つまり外力を加えないでも永久に運動し続ける機械は製作不可能である」という物理学上の法則に抵抗して、「製作が可能である」という予想のもとにいくら努力しても無駄なのです。
というのも不可能であるということが確立されたからには、その矛盾的対立者である「可能である」は偽となるからです。
このことも図30を見れば一目瞭然です。
なおその図で、「不可能である」は「可能でない」とおなじであり、さらに「でないことが必然である」ともおなじであり、この「でないことが必然である」は「必然である」と反対的関係に立ち、それゆえ下段の水平線上に位置して作図してあるということにも注意してください。
ついでにいいそえますと、いまの永久機関の製作不可能性は、物理学上の原理でしたが、数学でも不能問題というものがあります。
もっとも有名なものは、「与えられた任意の角を三等分せよ」という問題で、この三等分を、定木と=ンパスだけで作図することが不可能であるということは数学的に証明すみなのです。
そしてこのような不能問題もまた、その可能性をなおも追い求めてももはやだめなのです。
してもよろしいしなくてもよろしいしないことが当然であるということはないすべきであるということはないしなくてもよろしいということはないしてはよろしくないすべきである(しなければならない)しないことが当然である「してもよろしい」と「すべきである」可能性、現実性についてはまだまだ面白い問題かありますが。
先を急いで、の「してもよろしい」、「すべきである」を含む文のク。
ルテットをみることにしましょう。
例によって図をつくります。
図32と図33は重ねあわせて眺めてください。
図33のほうは漢文式のいいまわしを使いました。
これは否定詞「不」が、「許」の前にあるのと、後にあるのとで意味がまったくちがうということ、そして「不」が「許」の前と後の両方にあれば、それはけっき。
く「当為」つまり「まさにすべし」という、これまた漢文でおなじみのいいまわしと等置であるということを見せたかったからです。
さて「してもよろしい」、「すべきである」、「当為」といった語は、「する」、「為」といった動詞が含まれていることからわかりますように、もっばら人間の行為に関する記述に使われます。
行為といえば、アメリカやイギリスの本に(べしとべからず集)と銘うったものがあります。
それはたとえばエチケットの「べし、べがらす集」や、料理の「べし、べからす集」のようなものです。
ここで、きっとdon'tはもとはもちろん命令形ですが、それか名詞となり、その名詞に複数をあらわすSをつけたものなのです。
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